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東京地方裁判所 昭和40年(特わ)402号・昭40年(特わ)516号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(有罪部分以外の事実について)

一、被告人春日陽一、同松本豊、同和泉徳夫、同小野正弘に対する本件公訴事実のうち「被告人らは、昭和四〇年七月四日施行の参議院議員選挙に際し、野坂参三が東京地方区から立候補する決意を有することを知り、共謀の上同人に投票を得させる目的で、いまだ立候補届出のない同年五月三一日、被告人春日、同松本において、同選挙区の選挙人である東京都大島町野増字間伏所在の土屋時雄方、大谷ふさ方、浜中国香方(起訴状に浜中房男方とあるのは同人の母浜中国香方を指すのであつて誤まりと認められる。)、横山富次郎方、藤原藤吉方、梅田由郎方を、被告人和泉、同小野において同じく土屋良平方、土屋茂太郎方を戸々に訪問し、野坂に投票するよう依頼し、もつて戸別訪問をした。」との点について考察する。

被告人らが右訪問先を戸別に訪問し、本件の法定外選挙運動文書を頒布したことはすでに認定したとおりであるが、公職選挙法第一三八条第一項が同法第一四二条の法定外選挙運動文書頒布罪と別個に設けられている趣旨からすれば、同法第一三八条第一項はたんに選挙運動としての文書頒布行為を通して、被頒布者をして特定の候補者に投票せしめるよう働らきかけるというにとどまらず、より積極的な投票依頼の働らきかけを規制の対象としたものと解せざるをえない。けだし選挙運動とはある特定の選挙に際し、ある特定の候補者に当選を得させるため、投票を得もしくは得させる目的をもつてなされる直接又は間接に必要かつ有利な諸行為と解されることからすれば、法定外選挙運動文書を頒布する行為それ自体の中に投票依頼の趣旨が包含されていることは疑いのないところであり、しかも文書頒布の方法として戸別に訪問して配布して歩く行為も郵送による場合と別異に解さなければならない合理的根拠も見出しえないからである。そこで、これら被訪問先における被告人らの言動を、判示罪となるべき事実第二記載の被訪問先における被告人らの言動と対比してみると、後者の訪問先においては被告人らは明示的に野坂参三に対する投票依頼の趣旨をのべているに比し、前者の訪問先にあつてはその一部において「近く選挙がありますからこれを読んで下さい。」とか、あるいはたんに「これを読んで下さい。」といつて文書を配布したことが認められるにとどまり、右の如き文書頒布に当然随伴する言動を超えてより積極的に投票の目的をもつて訪問したと認めるに足りる証拠はない。もとより、同法第一三八条第一項にいう戸別訪問罪の成立するためには、訪問者において先にのべたような投票依頼の働らきかけをする目的をもつて訪問すれば足り、現実に投票を依頼する積極的な行為までをも必要とするものではないが、本件における被告人らの行為は、選挙運動のために使用する本件法定外選挙運動文書とともに、日本共産党の政策浸透を図るためのアカハタ等の文書を配布することにその主たる目的があつたと認められること、被告人らの訪問先のうち野坂参三に対する積極的な投票依頼の働らきかけをしたのは僅か五戸にとどまり、その余の八戸においては何ら積極的な働らきかけがなかつたことからすれば、これをもつて直ちに本件公訴事実中の前示土屋時雄方外七戸においても、前述したような意味での野坂参三に対する投票依頼の目的をもつて戸別に訪問したものと認定するには証拠が不十分であるといわざるをえない。このことは、たとえ被訪問者らが本件法定外選挙運動文書をみて野坂参三のための選挙運動に来たものと推認しえたとしても、それはまさに選挙運動としての法定外選挙運動文書頒布の成果に他ならないのであつて、このことをもつて、前示結論を左右するわけにはいかない。したがつて、右公訴事実についてはその証明が不十分であるが、右は判示有罪と認定した第二の事実と包括一罪として起訴されたものであるから、とくに主文において無罪の言渡をしない。

二、被告人佐藤新吉に対する本件公訴事実は、被告人春日陽一、同松本豊、同和泉徳夫、同小野正弘と共謀のうえ、判示罪となるべき事実第一摘示の立候補届出前の法定外選挙運動文書頒布行為ならびに判示罪となるべき事実第二および前記一に摘示した立候補届出前の戸別訪問行為をしたものであるというにある。

被告人佐藤新吉が本件文書の頒布ならびに戸別訪問の各実行行為に全く加担した事実がないことは疑う余地がない。従つて本件においては被告人佐藤に対する所謂共謀共同正犯の成否が問題とされなければならない。証人飯田重雄、同羽深房夫、同土屋富三夫、同遠藤正治、同遠藤利三郎、同浜口サイの各尋問調書、被告人春日陽一の検察官に対する供述調書、被告人小野正弘の検察官に対する各供述調書を綜合すると、被告人春日、同松本、同和泉、同小野は昭和四〇年五月三〇日午後被告人佐藤方を訪ね、同被告人方で夕食をとつた後、同被告人方附近の木村由勝方において行なわれた「アメリカはベトナムから出て行け」「破壊される農村」「野坂参三の一日」の各題名の映画映写会を被告人佐藤と一緒に開催したこと、被告人佐藤は同夜他の被告人四名を前田チカ(同被告人の妻の母)方に宿泊させたこと、翌五月三一日午前九時ころ被告人佐藤は他の被告人四名とともに大島クダツチ農協前バス停留所から元町方面行きのバスに乗り、被告人佐藤を除く他の四名は大島町間伏で下車したこと、被告人春日、同松本、同和泉、同小野が訪問先において頒布した本件文書ならびにアカハタ等はいずれも被告人佐藤方にあつてものであることはこれを認めるに十分であるし、右事実関係ならびに証人三田久作の尋問調書によれば被告人佐藤は他の被告人四名が本件文書やアカハタ、その他のパンフレット等を間伏地区内の民家に配布して歩いているのを知つていたのではいなかと疑われるふしもないではない。しかしながら、共謀共同正犯が成立するために必要な共謀又は謀議とは、二人以上の者が特定の犯罪を行なうため、共同意思のもとに一体となつて互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をいうと解されるところ、被告人佐藤新吉の当公判廷における供述によれば、被告人佐藤新吉方は日本共産党の赤旗分局であるところから、アカハタ、政策シリーズ等の日本共産党の発行にかかる文書は同党本部から被告人佐藤方に送付されてくることが窺えるのであつて、本件文書が被告人春日、同松本、同和泉、同小野の手中に帰しこれを頒布して歩くことになつた経過を立証すべき的確な証拠がない以上、仮りに被告人佐藤が他の被告人等四名において本件文書を頒布して歩いているのを知つていたとしても、被告人佐藤に対し本件の戸別訪問罪についてはもちろん、法定外選挙運動文書頒布罪についても共謀による共同正犯の責任を負わせることは到底できないのみならず、右戸別訪問罪や法定外選挙運動文書頒布罪の幇助犯の責任をも負わせることは困難といわなければならない。

したがつて、被告人佐藤に対する本件公訴事実は結局犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法第三三六条により被告人佐藤に対しは無罪の言渡をすることとする。(大矢根武晴 高木典雄 池田真一)

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